第5部 既存事業にシナジーを生む設計 Lesson 30 / 40

ターゲット設計 ―― 「入れてはいけない人」を先に決める

誰を集めるかと同じくらい、「入れてはいけない人」を決めることが場の質を守ります。空気感を壊さないためのターゲット設計を解説します。

コミュニティを作るとき、多くの人は「誰を集めるか」を考えます。それは大切ですが、それと同じくらい重要なのが「誰を入れないか」を先に決めることです。場の空気は、集めた人ではなく、合わない人が一人入るだけで簡単に崩れます。質を守るには、入口の段階で線を引く必要があります。

なぜ、たった一人で空気が崩れるのでしょうか。それは、場の雰囲気というものが、参加者一人ひとりの「ここではこう振る舞っていいのだ」という感覚の積み重ねでできているからです。誰かが売り込みを始めたり、人を見下すような発言をしたりすると、周りは「この場はそういう場所なのか」と感じ、安心して発言することをためらい始めます。真面目に関わっていた人ほど、その居心地の悪さに敏感で、静かに離れていく。荒らす人が去るのではなく、大切にしたい人から先に去っていく——これが、場が崩れるときの怖さです。だからこそ、崩れてから対処するのではなく、入口で防ぐ発想が要ります。

誰を集めるか

まず、集めたい人の輪郭を描きます。本業との相性、価値観、抱えている悩み。これらが近い人ほど、場になじみ、他の参加者とも良い関係を築けます。人数を増やすことより、合う人が集まることを優先します。

なぜ人数より相性なのか。それは、コミュニティの価値が参加者どうしの関係から生まれるからです。テレビや雑誌のように運営が一方的に情報を届ける場であれば、人数は多いほどよい。しかしコミュニティは、参加者どうしがつながり、教え合い、刺激し合うことで価値が生まれる場です。すると、方向性の合わない人が交じるほど会話がかみ合わなくなり、全体の居心地が下がっていきます。百人の名簿より、価値観の近い十人が本音で語り合える場のほうが、参加者にとってはるかに満足度が高い。規模より継続という言葉のとおり、最初に集める人の質は、その後の場が続くかどうかを静かに決めていきます。

観点集めたい人入れてはいけない人
目的学び合い・つながりを求める宣伝・勧誘だけが目的
姿勢場に貢献しようとする受け取るだけで返さない
価値観場の方針に共感している方針と合わない

「入れてはいけない人」を言葉にしておくと、迷ったときの判断基準になり、入口でのブレがなくなります。

ここで一つ注意したいのは、「入れてはいけない人」を属性で決めないことです。年齢や職業、性別、初心者か経験者かといった属性で線を引こうとすると、本当は場に合う人まで排除してしまい、しかも肝心の困った人は属性では見分けられません。見るべきは属性ではなく、姿勢です。売り込みや勧誘だけが目的の人、受け取るばかりで場に何も返そうとしない人、他の参加者を見下す人——こうした「関わり方」の問題は、どんな属性の人にも起こり得ます。逆に言えば、経歴や肩書きがどうであれ、場に貢献しようとする姿勢がある人なら歓迎できる。線を引くのはあくまで振る舞いに対してであって、人そのものにレッテルを貼るのではない、という区別を持っておくと、判断がぶれず、かつ不必要に狭い場にもなりません。

「入れてはいけない人」を決める

なぜ先に決めるのか。それは、合わない人を後から外すのは非常に難しいからです。一度入った人に退出を促すのは、本人にも他の参加者にも負担がかかります。だからこそ、入口で線を引くことが、結果として全員を守ることになります。

合う人だけの場 良い空気が保たれる 合う人 合わない人
図:入口で線を引くことが、結果として全員を守る

線を引くことは、排他的になることとは違います。場の目的を守り、集まった人が安心して過ごせるようにするための配慮です。とはいえ、実際に「この人は合わない」と入口で判断するのは、心情的にためらうものです。誰かを断るのは気が引けますし、人数も欲しい。そこで役立つのが、入る前に場の方針や約束事をはっきり示しておくことです。「ここはこういう目的の場で、こういう関わり方をお願いします」と最初に伝えておけば、合わない人は自分から「ここは違うな」と判断して離れていきます。こちらが選別するというより、相手に選んでもらう。この形にできれば、断る痛みを避けながら、場の質を保てます。

具体的な仕組みとしては、入会前に簡単な申込フォームや面談を挟み、参加の目的をひとこと書いてもらうやり方があります。手間に見えますが、この一段の階段があるだけで、「宣伝目的でとりあえず入っておこう」という軽い動機の人は自然と減ります。真剣に関わりたい人にとっては、むしろ「きちんと選ばれた場だ」という安心につながる。入口をあえて少しだけ狭くすることが、中の人たちを守るのです。そしてもう一つ大切なのが、線引きの基準を運営者の頭の中だけに置かず、言葉にして共有しておくことです。運営が複数人いる場合、判断が人によってぶれると、入口はたちまち機能しなくなります。「こういう人は歓迎、こういう関わり方はお断り」を明文化しておけば、誰が対応しても同じ基準で迎えられます。

ペルソナ設計

集めたい人を、より具体的な一人の人物像として描くのがペルソナ設計です。年齢や職業だけでなく、どんな悩みを抱え、何を求め、どんな場なら心地よく過ごせるか。一人を鮮明に描くほど、告知の言葉も運営の判断も定まります。

ペルソナは、架空の理想像を空想で作り上げる必要はありません。むしろ、これまで自社が接してきたお客様の中で「この人がもっと増えてくれたら嬉しい」と思える実在の一人を思い浮かべ、その人を手がかりに描くのが確実です。その人はなぜ自社を選んでくれたのか、どんな会話のときに顔がほころんだのか、何に困って相談してきたのか。実在の記憶から立ち上げたペルソナは、机上の空想と違って生々しく、告知文を書くときも「あの人ならこの言葉に反応するだろうか」と具体的に検証できます。一人に向けて書いた言葉は、不思議と、その人に似た多くの人にも届きます。逆に「みんな」に向けて書いた言葉は、輪郭がぼやけて誰の心にも残りません。ここでも、絞ることが遠回りではなく近道になるのです。

ペルソナで描く項目ぼんやりした例鮮明な例
悩み集客に困っている紹介客は来るが、新規の入口がなく先細りが不安
求めるもの役立つ情報が欲しい同じ規模の経営者と、失敗も含めて本音で相談し合いたい
心地よい場雰囲気が良い場売り込みがなく、少人数で顔と名前が一致する場

この表のように、同じ項目でも「鮮明な例」まで踏み込めているかで、設計の解像度はまるで変わります。左の列で止まっているうちは、まだ誰に向けた場なのかが定まっていないサインだと考えてください。

誰を集めるかと同じくらい、誰を入れないかを決める。それが場の質と空気感を守ります。

とりわけ立ち上げ直後の少人数の時期は、この設計がものを言います。最初に集まった数人が、その場の「ふつう」をつくるからです。序盤に集まった人たちの振る舞いが、後から入る人にとっての手本になります。だから、人数が少ないうちほど、誰を迎えるかを慎重に選ぶ価値があります。逆に、早く数を増やしたい一心で誰でも受け入れてしまうと、場の空気が定まる前に方向性がばらけ、後から立て直すのは容易ではありません。急がば回れで、最初の十人を丁寧に選ぶことが、百人になったときの空気を決めます。

ペルソナと「入れてはいけない人」の両方を書き出しておけば、参加希望者が現れたときに迷いません。最初の設計が、その後の場の空気を大きく左右します。そしてこの二つは、一度書いて終わりにせず、運営しながら見直していくものだと考えてください。実際に人が集まってみると、「思っていた人物像とは少し違うけれど、この場にとても合う人」に出会うこともあります。そうした発見を、ペルソナの解像度を上げる材料として取り込んでいく。設計図を握りしめるのではなく、現実の参加者から学びながら磨いていく姿勢が、結局はいちばん場の空気を守り育てていきます。

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株式会社AI Docks 代表 松永勇樹
株式会社AI Docks 代表取締役 /「コミュニティ2.0」提唱者

松永 勇樹

150名+ノーコードサロン運営
50件+場づくりの相談実績
多業種法人コミュニティ支援

150名以上が参加するコミュニティを自ら運営する現役オーナー。AIを活用し、中小企業のコミュニティを「立ち上げ」から「運営」まで一気通貫で伴走支援しています。集客・顧客定着・採用に効く"稼ぐコミュニティ"を、設計から収益化まで一緒に形にします。

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