USP設計 ―― 選ばれる理由(独自の価値)をつくる
数あるコミュニティの中で「なぜここに入るのか」。参加する理由=USPを言語化しないと人は集まりません。選ばれる理由の作り方を解説します。
いま、無料・有料を問わず参加できる場は数え切れないほどあります。その中で「なぜ、ほかではなくここに入るのか」に答えられなければ、人は集まりません。この参加する理由こそが独自の価値、USPです。USPが曖昧なまま告知しても、反応は返ってきません。
なぜ、これほどUSPが大事なのでしょうか。理由は、人が新しい場に入るとき、必ず「自分の時間を使う価値があるか」を無意識に天秤にかけているからです。無料であっても、参加すれば時間という一番貴重な資源を差し出すことになります。「なんとなく良さそう」では、その天秤は動きません。「ここでしか得られない、自分にとって必要なものがある」とはっきり感じられて、はじめて人は一歩を踏み出します。USPとは、参加をためらう相手の背中を押す、たった一つの決め手のことなのです。
USPとは何か
USPは「独自の売り」と訳されますが、コミュニティでは「ここにしかない参加する理由」と考えると分かりやすくなります。他の場でも得られる価値では、選ばれる決め手になりません。自社の本業や経験と結びついた、代わりのきかない価値を言葉にすることが出発点です。
ここで大切なのは、USPは無理に発明するものではなく、すでに自社の中にあるものを掘り起こす作業だ、ということです。多くの経営者は「うちには特別な売りなんてない」と言いますが、話を丁寧に聞いていくと、長年の商売の中で培った独自の視点や、その業界にいるからこそ持っている知見が必ず出てきます。それが本人にとっては「当たり前すぎて価値と気づけない」だけなのです。他人からすれば喉から手が出るほど欲しい知識や人脈を、日常的に持っている。USP設計とは、その埋もれた宝を外から見える言葉に翻訳する作業だと考えると、ぐっと取り組みやすくなります。
| 観点 | USPが弱い場 | USPが明確な場 |
|---|---|---|
| 参加理由 | なんとなく良さそう | ここでしか得られない価値がある |
| 対象 | 誰でも歓迎 | 特定の人に深く刺さる |
| 説明 | 一言で言えない | 一文で言い切れる |
「誰でも歓迎」は一見間口が広く見えますが、実際には誰にも強く刺さりません。対象を絞るほど、参加する理由は鋭くなります。ここが多くの経営者にとって、頭では分かっても心情的に受け入れがたいところです。せっかく場をつくるなら、一人でも多くに来てほしい。だから間口を広げたくなる。しかし、万人に向けた「みんなにいい場所」は、裏を返せば「特に自分のための場所ではない」と受け取られます。逆に、「まさに自分のことだ」と感じてもらえた人は、多少の欠点には目をつぶってでも入りたいと思う。絞ることは、人を減らすのではなく、深く刺さる相手を選ぶことなのです。
USPを考えるとき、よく混同されるのが「機能」と「価値」の違いです。「毎週オンライン勉強会があります」「専用のチャットがあります」——これらは機能の説明であって、USPそのものではありません。人が本当に反応するのは、その機能によって自分の何が変わるのか、という価値のほうです。「毎週の勉強会」なら、その先にある「一人では続かない学びを、仲間がいるから続けられる」という変化こそが刺さる。機能はどこの場にも似たものがありますが、その機能が「誰の、どんな変化を生むか」まで言い切ると、途端に他と区別がつくようになります。自社のUSPを点検するときは、「それは機能の説明で止まっていないか、参加者に起きる変化まで語れているか」を確かめてみてください。
選ばれる理由の作り方
USPは、自社の強みと参加者の求めるものが重なるところに生まれます。自社が本業で積み上げてきた知見や実績、そこにしかない人のつながり。それらのうち、参加者が本当に欲しいものは何かを考え、重なる部分を言葉にします。
強みだけを主張しても、参加者が求めていなければ響きません。両方が重なる一点を探すことが要になります。
具体例で考えてみましょう。ある工務店が、家づくりを考える人向けのコミュニティを始めるとします。「腕のいい大工がいます」だけでは、他の工務店も同じことを言えます。しかし、その工務店に「地元の木材にこだわり、施主と一緒に山を見に行くところから家をつくる」という積み重ねがあり、参加者の側にも「顔の見える人と、納得しながら一生ものの家を建てたい」という願いがあるなら、その重なりがUSPになります。ここで効いているのは、機能や価格ではなく、その会社がなぜそうするのかという考え方——いわば思想です。商品より思想という言葉があるように、真似のしにくい強さは、スペックの優劣ではなく、その場が大切にしている価値観への共感から生まれます。自社が何を信じ、何にこだわってきたかを掘り下げることが、代わりのきかないUSPの源泉になるのです。
差別化を言語化する
頭の中で分かっているつもりでも、言葉にできていないことがほとんどです。「この場は、誰の、どんな悩みに、他とどう違う形で応えるのか」を一文で書いてみます。書けなければ、まだUSPは固まっていません。
この一文を書くとき、抜けやすいのが「他とどう違う形で」の部分です。「経営者の悩みに応える場です」だけでは、世の中にいくらでもある。そこに「同じ規模の経営者だけで、失敗談まで本音で出し合える」といった、他では得にくい形が加わって初めて、輪郭がくっきりします。うまく書けないときは、下の表のように要素を分けて埋めてみると、どこが曖昧なのかが見えてきます。
| USPの要素 | 問い | 記入例 |
|---|---|---|
| 誰の | 対象は誰か | 創業まもない一人社長 |
| どんな悩みに | 何に困っているか | 相談相手がおらず、判断を一人で抱えている |
| どう違う形で | 他とどこが違うか | 同じ立場の仲間と、少人数で継続的に伴走し合える |
三つの欄がすべて具体的に埋まったとき、それらをつなげた一文が、そのままUSPになります。どこか一つでも空欄や「なんとなく」で止まっているなら、そこがこれから磨くべき場所です。
なぜ、ほかではなくここに入るのか。この問いに一文で答えられることが、集まる場の条件です。
言語化したUSPは、告知文にも、誘う際の言葉にも一貫して使えます。差別化を言葉にすることで、初めて人に伝わり、選ばれる場になっていきます。それだけではありません。固まったUSPは、運営の日々の判断を支える羅針盤にもなります。新しい企画をやるべきか、この人を招くべきか、どんな投稿をすべきか——迷ったときに「それはうちのUSPを強めるか、薄めるか」で測れば、答えは自ずと絞られます。USPが曖昧な場は、あれもこれもと手を広げるうちに、いつのまにか「よくある普通の場」に埋もれていきます。一本の芯が通っているからこそ、場は独自の色を保ち続けられるのです。もう一つ、USPは一度決めたら終わりではない、という点も覚えておいてください。場を運営していくうちに、参加者が本当に喜んでいるのは、当初想定していたのとは別の価値だった、と気づくことがよくあります。そのときは、実際に刺さっているほうへ言葉を修正していけばよいのです。USPは、机上で完璧に練り上げるものではなく、参加者の反応を見ながら磨き続けるもの。実際の声こそが、最も確かなヒントをくれます。とりわけ、参加者が場のことを人に紹介するときに使う言葉には、注意を向ける価値があります。「あそこは○○な場所だよ」と誰かが自分の言葉で言い表してくれたとき、その表現こそ、あなたが探していたUSPの原石であることが少なくありません。作り手が悩んで練るより、惚れ込んでくれた参加者のひとことのほうが、的を射ていることがあるのです。