第2部 コミュニティの原理 Lesson 08 / 40

コミュニティの4要素(ヒラリー)

社会学者ヒラリーは、コミュニティの共通要素を「人・絆(帰属感)・相互作用・領域」と整理しました。AI時代は『領域』が物理空間に限らなくなっただけで、本質は変わりません。

「コミュニティ」という言葉は、人によって指すものがバラバラです。ある人はオンラインサロンを思い浮かべ、別の人は町内会を、また別の人はSNSのフォロワーの集まりを想像します。同じ言葉を使いながら、頭の中で描いている絵がまったく違う。だから「コミュニティをつくりたい」と言っても、話がかみ合わないことがよくあります。そこで手がかりになるのが、社会学者ヒラリーの整理です。彼は数多くの定義を調べ、共通して現れる要素を洗い出しました。この4つを押さえると、自社の場に「何が足りないのか」が見えてきます。言葉の定義があいまいなまま走り出すのではなく、まず共通の土台をそろえておくことが、遠回りに見えて確実な近道になります。

ヒラリーの定義とは

ヒラリーは、世の中にあふれるコミュニティの定義を集め、繰り返し登場する共通要素を抽出しました。結論として残ったのが、人・絆(帰属感)・相互作用・領域の4つです。どれか1つでも欠けると、単なる名簿や一時的な集まりに近づきます。逆に4つがそろうと、参加者が「ここは自分の場所だ」と感じ、自然に関わり続ける状態が生まれます。

ここで大切なのは、この4つが「そろえるべきチェック項目」であると同時に、「どこが弱いかを診断するものさし」でもある、という点です。うまくいっていない場を眺めるとき、人はつい「人数が足りない」「発信が足りない」と、目に見える部分に原因を求めがちです。しかし実際には、4つのうちのどれかが静かに抜け落ちていることのほうが多いのです。たとえば人は集まっているのに絆が育たない、領域はあるのに相互作用が起きない。この4要素を頭に入れておくと、そうした「見えにくいつまずき」に気づきやすくなります。

コミュニティ 絆・帰属感 相互作用 領域
図:4つの要素が重なる場所にコミュニティが生まれる

4要素をひとつずつ

4つは、それぞれ役割が違います。下の表で、意味と自社で確認すべき問いを整理します。

要素意味確認する問い
参加する個々のメンバー誰のための場か
絆・帰属感「自分の居場所だ」という感覚また来たいと思えるか
相互作用メンバー同士のやりとり一方通行になっていないか
領域集まる場や共通のテーマどこで、何を軸に集うか

「人」は、ただ数がそろえばよいわけではありません。誰に向けた場なのかがはっきりしているほど、集まる人の顔ぶれもそろい、話が通じやすくなります。「絆・帰属感」は、参加した人が「また来たい」と思えるかどうかで測れます。一度きりの参加で終わってしまう場は、ここが育っていません。「相互作用」は、メンバー同士が言葉を交わし、反応し合う動きそのものです。そして「領域」は、集まる場所と、そこで共有するテーマの両方を指します。この4つは切り離せず、互いに支え合っています。人が集まり、やりとりが生まれ、それが繰り返されるうちに絆が育ち、その舞台となる領域が意味を帯びていく。順番に回っていく循環として捉えると、理解しやすくなります。

とくに見落とされがちなのが「相互作用」です。運営者と参加者の間だけで会話が回り、参加者同士がつながっていない場は、絆が育ちにくくなります。運営者が一生懸命に情報を発信し、参加者はそれを受け取るだけ。一見にぎわって見えても、これは相互作用ではなく一方通行です。参加者が退会するとき、その理由の多くは「情報が足りない」ではなく「自分の居場所だと感じられなかった」ことにあります。つまり、絆と相互作用が細っていたのです。

ここで、4要素を「1対N」と「N対N」という言葉で捉え直すと、弱点が見えやすくなります。運営者ひとりが大勢に向けて発信するのが「1対N」、参加者どうしが互いに関わり合うのが「N対N」です。多くの場は「1対N」までは上手にできています。しかし、そこで満足してしまうと、参加者にとってその場は「情報を受け取る窓口」にとどまり、居場所にはなりません。「N対N」のやりとりが生まれてはじめて、その場は参加者にとって手放したくない居場所へと変わります。運営者が発信を頑張りすぎると、かえって参加者は受け身になり、「N対N」が育ちにくくなることさえあります。運営が一歩引いて、参加者どうしが主役になれる余白を残すこと。この意識が、相互作用を育てるうえで欠かせません。

よくある誤解

コミュニティというと、「たくさんの人を集めること」「立派なプラットフォームを用意すること」だと考えられがちです。しかしヒラリーの4要素に照らすと、それらは主に「人」と「領域」の話にすぎません。残る「絆」と「相互作用」を欠いたまま規模やツールだけを整えても、場はにぎわいません。もう一つの誤解は、「良いコンテンツさえあれば人は集まり続ける」という思い込みです。質の高い発信は入り口としては有効ですが、それだけでは受け手が増えるだけで、参加者同士のつながりは生まれません。コンテンツは相互作用のきっかけであって、代わりにはならないのです。

たとえば、ある小さな学習塾が保護者向けにLINEのグループをつくった場面を想像してみます。最初は塾からのお知らせを流すだけの連絡網でした。しかし、ある保護者の「うちの子、宿題を嫌がって困っています」という一言に別の保護者が体験談で応じたことから、保護者同士のやりとりが生まれました。運営者である塾は、そこで一方的な連絡を減らし、月に一度「困りごとを気軽に書き込む日」を設けました。すると、単なる連絡網だったグループが、保護者にとっての「同じ立場の仲間がいる場所」に変わっていきました。ここで起きたのは、領域(LINEグループ)はそのままに、相互作用を意図的に増やしたことで、絆が育ったという変化です。4要素のうち弱いところに手を入れる、その一例です。

オンラインでも変わらない本質

AI時代になって変わったのは、4つ目の「領域」の姿だけです。かつて領域といえば、店舗や地域といった物理空間を指しました。いまはオンラインのグループやチャットも、立派な領域になります。

場所がデジタルに変わっても、人・絆・相互作用が必要なことは変わりません。

この点は、いま多くの会社が誤解しているところです。LINEやDiscord、専用アプリといったツールは、あくまで「器」であって、「料理」そのものではありません。立派な器を用意しただけで料理が出てくるわけではないように、ツールを導入しただけで絆や相互作用が生まれるわけではありません。器に何を盛るか――つまり、どんな人が集い、どんなやりとりが交わされ、どんな帰属感が育つか――こそが中身です。ここを取り違えると、「良いツールを入れたのに、なぜか場が動かない」という壁に必ずぶつかります。

つまり、道具が新しくなっただけで、コミュニティの土台は昔から同じです。オンラインでうまくいかないときは、たいてい「領域」ではなく、絆や相互作用の設計が抜けています。新しいツールを導入すれば解決すると考えて、プラットフォームを次々と乗り換える運営者がいますが、多くの場合、問題はツールではありません。どのツールを使っても、参加者同士が言葉を交わし、居場所だと感じられる仕掛けがなければ、場は静かになっていきます。逆に言えば、この4要素さえ意識できていれば、道具は身近なもので十分です。すでに使っているチャットや掲示板でも、絆と相互作用を丁寧に育てれば、立派なコミュニティになります。この4要素に立ち返ることが、遠回りに見えて確実な近道です。

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株式会社AI Docks 代表 松永勇樹
株式会社AI Docks 代表取締役 /「コミュニティ2.0」提唱者

松永 勇樹

150名+ノーコードサロン運営
50件+場づくりの相談実績
多業種法人コミュニティ支援

150名以上が参加するコミュニティを自ら運営する現役オーナー。AIを活用し、中小企業のコミュニティを「立ち上げ」から「運営」まで一気通貫で伴走支援しています。集客・顧客定着・採用に効く"稼ぐコミュニティ"を、設計から収益化まで一緒に形にします。

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