第1部 なぜ今、コミュニティなのか Lesson 03 / 40

広告費高騰という構造変化

広告単価は上がり続け、「買う集客」の費用対効果は逓減しています。これは一時的な高騰ではなく構造変化。集客を「買う」から「持つ」へ切り替える発想が必要です。

「以前と同じ予算をかけているのに、集客が思うように伸びない」。そう感じている経営者は少なくありません。これは気のせいでも、やり方が下手なわけでもありません。広告をめぐる環境そのものが、後戻りしない形で変わっているのです。

多くの会社が「広告の運用を工夫すれば、また昔のように成果が戻る」と考えて、細かな改善に時間を費やしています。もちろん改善は無駄ではありません。しかし、いくら運用を磨いても、土台となる市場の構造が変わってしまっている場合、努力の効き目は限られます。まずはこの「構造が変わった」という事実を正しく理解することが、次の一手を考える出発点になります。

広告費が上がり続ける実態

ネット広告の多くは、限られた表示枠を広告主同士が競り合う「入札」で値段が決まります。参入する企業が増えれば増えるほど、同じ人に届けるための単価は上がっていきます。市場に出稿者が増え続ける以上、単価が上がる圧力は構造的にかかり続けます。

なぜ入札という仕組みが単価を押し上げるのか、少し具体的に考えてみましょう。ある地域で「リフォーム 相談」と検索する人の数は、そう大きくは変わりません。ところが、その検索結果に広告を出したい会社は年々増えていきます。限られた「見たい人」を、多くの会社が奪い合う。すると、より高い金額を提示した会社の広告が表示される仕組みなので、単価はじりじりと上がっていきます。需要(枠)は一定なのに、それを求める側が増え続ける。値段が上がるのは当然の帰結なのです。

単価 数年前 前々年 昨年
図:同じ人に届けるための単価は上がり続ける(イメージ)

参考データ:電通「2024年 日本の広告費」によると、インターネット広告費は前年比109.6%の3兆6,517億円と過去最高を更新し、総広告費(7兆6,730億円・4年連続で成長)の47.6%を占めました(出典:電通ウェブサイト)。市場全体が拡大し続けるほど、限られた枠をめぐる競争は激しくなります。

この数字が示しているのは、単なる一年の好調ではありません。広告市場全体が年々ふくらみ、その中でネット広告がますます中心になっているという流れです。市場が大きくなるほど、その枠を求める会社も増え、競争は激しくなります。つまり、あなたが感じている「効きが悪くなった」という実感は、市場全体で起きている変化の一部なのです。

さらに、単価の上昇だけが逆風なのではありません。近年は個人情報の扱いをめぐるルールが世界的に厳しくなり、広告が「誰に届いているか」を細かく追いかけることそのものが難しくなってきました。以前なら、興味を持ちそうな人を精密に狙い撃ちできましたが、その精度が落ちれば、同じ金額でも無駄打ちが増えます。単価が上がる一方で、狙いの精度は下がる。この二重の圧力が、「昔と同じ予算なのに伸びない」という実感の正体です。運用テクニックを磨いても追いつききれないのは、土台そのものが変わってしまっているからなのです。

「買う集客」の限界

広告に代表される「買う集客」は、お金を払っている間だけ人が集まる仕組みです。止めれば流入も止まり、手元には何も残りません。しかも単価が上がり続けるということは、同じ成果を得るのに毎年より多くのお金が必要になるということ。体力のある大企業なら耐えられても、中小企業には重くのしかかります。

観点買う集客持つ集客
お金の性質払い続ける費用積み上がる資産
止めたとき流入もゼロに関係は残り続ける
時間の効果単価が上がり不利に続けるほど有利に

たとえば、あるBtoBの小さな製造業を考えてみましょう。展示会や検索広告に毎月まとまった額を投じ、問い合わせを獲得してきました。ところが単価が上がるにつれ、一件の問い合わせを得るためのコストがじわじわと膨らみます。予算を削れば問い合わせは即座に減り、維持すれば利益が薄くなる。まるで、穴の空いたバケツに水を注ぎ続けているような状態です。手を止めた瞬間にすべてが引いていく――これが「買う集客」だけに頼ることの怖さです。

ここでよくある誤解をひとつ挙げておきます。「広告をやめれば、その分そっくり利益になる」という考え方です。しかし現実には、広告を止めた途端に新規の流入が消え、売上そのものが落ち込みます。買う集客は、止められない前提で組み込まれてしまうと、コストがかさんでもやめるにやめられない状態を生みます。だからこそ、広告と並行して、止めても消えない別の集客の柱を育てておく必要があるのです。

この「やめられなさ」を、少し別の角度から捉えてみましょう。買う集客は、いわば毎月家賃を払って借りている土地のようなものです。払っている間は使えますが、契約を切れば何も残りません。どれだけ長く借り続けても、その土地が自分のものになることはない。一方で、後述する「持つ集客」は、時間をかけて自分の土地を耕していく営みに近いものです。同じお金と時間を投じるなら、借り続けるためのお金と、自分の資産を増やすお金と、どちらに重心を移していくべきか。この問いこそが、これからの集客戦略の分かれ目になります。

ここで一点、誤解のないように付け加えておきます。「だから広告はもう無駄だ」と言いたいわけではありません。広告には、短期間でまとまった数に届けられるという、コミュニティにはない強みがあります。新商品の告知や、立ち上げ直後にまず存在を知ってもらう場面では、今も有効な手段です。問題なのは、広告「だけ」に集客を委ねてしまうことです。上がり続けるコストにすべてを乗せてしまうと、環境の変化に対してあまりに脆くなります。広告は瞬発力、コミュニティは持久力。両輪で持つ、という発想が現実的です。

「持つ集客」への転換

ここで発想を切り替えます。集客を毎回「買う」のではなく、自社を中心とした場を「持つ」のです。一度つながった人との関係は、広告のように毎月消えていくものではありません。続けるほど厚みを増し、口コミや紹介という形で新しい人を連れてきます。

「持つ集客」の最大の違いは、時間が敵ではなく味方になることです。買う集客では、時間が経つほど単価が上がり、条件は不利になっていきます。持つ集客では逆に、時間が経つほど関係が深まり、メンバーが増え、紹介の輪が広がっていきます。同じ「続ける」でも、片方はコストが増え、片方は資産が増える。この違いは、数年という単位で見たときに決定的な差になります。

先ほどの製造業の例で考えてみましょう。もしこの会社が、既存の取引先や見込み客が集まる小さな場を持っていたらどうでしょうか。技術の相談に乗り、業界の話題を交わすうちに、信頼が積み重なっていきます。すると、新しい案件が生まれたとき、真っ先に声がかかるのはこの会社です。しかもその評判を聞いた別の会社が、紹介を通じてやってくる。広告のように毎月お金を払わなくても、関係という資産が新しい仕事を運んでくるのです。もちろん広告をすべてやめる必要はありません。大切なのは、買う集客だけに依存せず、止めても消えない柱を並行して育てておくことです。

買う集客は費用、持つ集客は資産。上がり続けるコストに追われるより、減らない資産を育てる。

もちろん、コミュニティは広告のように即効性があるわけではありません。畑を耕して種をまき、育つのを待つように、成果が出るまでには時間がかかります。ここを見誤って「一ヶ月やったのに人が集まらない」とやめてしまうと、資産が積み上がる前に手を引くことになります。広告は狩猟、コミュニティは農耕です。上がり続けるコストに一方的に追われる状態から抜け出すには、この農耕の発想、すなわち「買う」から「持つ」への切り替えが欠かせないのです。

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株式会社AI Docks 代表 松永勇樹
株式会社AI Docks 代表取締役 /「コミュニティ2.0」提唱者

松永 勇樹

150名+ノーコードサロン運営
50件+場づくりの相談実績
多業種法人コミュニティ支援

150名以上が参加するコミュニティを自ら運営する現役オーナー。AIを活用し、中小企業のコミュニティを「立ち上げ」から「運営」まで一気通貫で伴走支援しています。集客・顧客定着・採用に効く"稼ぐコミュニティ"を、設計から収益化まで一緒に形にします。

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