第4部 目的別・コミュニティの種類と作り方 Lesson 22 / 40

採用に効くコミュニティの作り方

求人媒体に頼らず、価値観の合う人材と先につながる。母集団形成とカルチャーマッチを両立する、採用に効くコミュニティの作り方です。

求人を出すたびに費用がかかり、応募は来ても価値観が合わない——多くの中小企業が抱える悩みです。採用型コミュニティは、募集を出す前から価値観の合う人とつながっておく場です。母集団を形成しながら、同時にカルチャーマッチも確かめられる点が、媒体頼みの採用との違いです。

そもそも、なぜ媒体頼みの採用はうまくいきにくいのでしょうか。理由は、出会いのタイミングが「相手が仕事を探している一瞬」に限られてしまうからです。求人を出した瞬間に、たまたま転職を考えていて、たまたま条件が合う人。この狭い交差点で出会おうとするから、母数が細り、条件だけの比較になり、価値観の見極めもできないまま採用に至ります。採用型コミュニティは、この交差点を「点」から「線」へと引き延ばす発想です。まだ転職を考えていない段階から関係を築いておけば、相手が動き出したとき、真っ先に思い浮かぶ会社になれる。募集の瞬間に勝負するのではなく、その手前の時間で勝負を決めておくのです。

向いている企業

急な大量採用より、少数を丁寧に、長く働いてもらいたい企業に向いています。会社の価値観や仕事の面白さを、時間をかけて伝えられるほど効果が出ます。

観点向いている向きにくい
採用の性質継続的に少数を採る一度に大量に採る
重視する軸価値観・定着を重視人数の充足を最優先
伝えられる魅力仕事観や文化がある条件面での訴求が中心

条件だけで比べられると価格競争になります。価値観で選ばれる会社ほど、この場が生きてきます。ここで多くの経営者が抱くのが、「うちのような小さな会社に、給料も知名度も大手にかなわないのに、人が集まるだろうか」という不安です。しかし、条件で勝てないからこそ、価値観で選ばれる道に活路があります。大手の条件には惹かれても、その社風が自分に合うかは分からない。一方、小さな会社は、働く人の顔も、仕事の面白さも、経営者の想いも、間近で伝えられます。「条件は並でも、この人たちと働きたい」と思ってもらえれば、その人は簡単には離れません。規模の小ささは、採用において必ずしも不利ではないのです。

具体的に思い描いてみましょう。ある地方の工務店が、求人を出すたびに大手の求人媒体に費用を払い、応募は数件来るものの、来るのは条件だけを見て応募した人ばかりで、入っても長続きしない——という悪循環に陥っていたとします。そこで、家づくりの裏側や、職人の手仕事、現場での失敗談やこだわりを、SNSや小さなオンラインの場で日常的に発信し始めました。すると、すぐには応募につながらなくても、「この会社の家づくりが好き」という人が少しずつ集まってきます。数か月後、増員が必要になったとき、その中の一人が「実は前から気になっていました」と手を挙げてくれる。媒体に高い掲載料を払わずとも、価値観の合う人が向こうから近づいてくる。これが、関係を先に育てておくことの効き目です。

主要KPI

採用型は、応募数だけでなく「関係人口」——まだ応募していないが会社に関心を持つ人の広がりを見ます。関心が育ち、面談を経て入社し、定着するまでを段階で追います。

関係人口(関心のある人) カジュアル面談・交流 応募・選考 入社・定着
図:関係人口から入社・定着へ、段階で追う採用ファネル

代表的なKPIは、関係人口、応募・カジュアル面談の数、そして入社後の定着率です。入口を広げるだけでなく、価値観が合った人がきちんと残るかまでを見ます。とりわけ見落とされがちなのが、最後の「定着率」です。採用の成否は、入社した瞬間ではなく、その人が長く活躍してくれて初めて確定します。苦労して採った人が半年で辞めてしまえば、採用コストは水の泡どころか、現場の負担はかえって増えます。関係を育ててから採る方式は、この定着率で真価を発揮します。入る前から会社の実像を知っている人は、「思っていたのと違った」というギャップが小さく、辞めにくいからです。追う数字は「何人採ったか」だけでなく、「採った人がどれだけ残ったか」まで含めて見ましょう。

作り方のポイント

会社の価値観や仕事の中身を、発信と交流を通じて日常的に伝えます。大切なのは、社員自身が参加すること。働く人の生の声に触れられるほど、参加者は自分に合うかを判断でき、入社後のミスマッチが減ります。

もう一つ、関係を育てる採用には、既存の社員や卒業生・取引先を起点にする道もあります。いわゆる紹介・リファラルの発想です。いまいる社員が「うちは働きやすいよ」と胸を張って言える会社なら、その言葉は、どんな求人広告よりも信頼される推薦状になります。社内の場が健やかで、社員が自社に誇りを持っていれば、その熱は自然と外へにじみ出て、「知り合いに一人、合いそうな人がいる」という声が生まれやすくなります。つまり、前のレッスンで触れた従業員エンゲージメントの高さは、そのまま採用力にもつながっています。社外に向けた採用の場と、社内の関係づくりは、別々のものではなく地続きなのです。まず内側を大切にすることが、結局はいちばん確かな採用の土台になります。

ここで注意したいのは、いい面ばかりを飾って見せないことです。採用の場というと、つい会社の魅力を並べたくなりますが、実際の仕事には地味な作業も、大変な局面もあります。それを隠して入ってもらえば、入社後に「話が違う」となって、結局は離れていきます。むしろ、大変なところも正直に伝えたうえで「それでも面白い」と感じてくれる人こそ、長く活躍してくれます。飾らない生の声が行き交う場であることが、ミスマッチを防ぐ最大の仕掛けです。だからこそ、発信を経営者だけに任せず、現場の社員が自分の言葉で語れる状態をつくることが肝心になります。

二つの採用の考え方を並べてみると、違いがはっきりします。どちらが良い悪いではなく、後者の土台があるほど、いざ媒体を使うときの成果も上がります。

観点媒体頼みの採用関係を育てる採用
出会う相手いま探している人だけまだ探していない人も含む
判断材料条件・スペック中心価値観・仕事の実像
かかる費用募集のたびに発生日々の発信に分散
入社後の定着ギャップで離れやすい実像を知っており残りやすい

大切なのは、この二つを対立させないことです。関係を育てる土台があれば、応募が集まりやすくなり、選考でも価値観の確認に時間を割けます。媒体を否定するのではなく、媒体に頼り切らなくてよい状態を、日頃から用意しておくということです。

では、具体的に何を発信すればいいのか。難しく考える必要はありません。求職者が本当に知りたいのは、給料や休日といった条件面以上に、「入ったら、どんな毎日を過ごすことになるのか」という実像です。ある一日の仕事の流れ、チームでどんな会話が交わされているか、失敗したときにどう支え合うか、どんなときに「この仕事をしていてよかった」と感じるか——こうした、募集要項には載らない日常の手ざわりこそ、価値観の合う人に響きます。派手な実績を並べるより、地に足のついた日々を淡々と見せるほうが、「自分もこの中で働いている姿が想像できる」と感じてもらえます。そして、その発信を続けるうちに、社員自身が「自分たちの仕事は語る価値がある」と再認識する副産物も生まれます。採用の場づくりは、外に見せると同時に、内側の誇りを耕す営みでもあるのです。

採用は、募集の瞬間ではなく、関係を育てた時間で決まる。

すぐに採用につながらなくても、関係人口が積み上がれば、必要なときに声をかけられる相手が増えます。媒体に頼り切らない採用の土台になります。この土台づくりは、すぐに成果が見えないぶん、つい後回しにされがちです。しかし、人が必要になってから慌てて動くのでは、いつも媒体に高い費用を払い続けることになります。採用に困っていない今のうちから、少しずつ関係人口を耕しておく。この地道な備えが、いざというときに「声をかければ来てくれる人がいる」という安心につながります。採用型コミュニティは、緊急時の特効薬ではなく、日頃から育てておく畑のようなものだと考えてください。

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株式会社AI Docks 代表 松永勇樹
株式会社AI Docks 代表取締役 /「コミュニティ2.0」提唱者

松永 勇樹

150名+ノーコードサロン運営
50件+場づくりの相談実績
多業種法人コミュニティ支援

150名以上が参加するコミュニティを自ら運営する現役オーナー。AIを活用し、中小企業のコミュニティを「立ち上げ」から「運営」まで一気通貫で伴走支援しています。集客・顧客定着・採用に効く"稼ぐコミュニティ"を、設計から収益化まで一緒に形にします。

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