第3部 中小企業の経営課題とコミュニティ Lesson 17 / 40

コミュニティは経営課題を解決する「器」

コミュニティ自体が目的ではありません。集客・定着・採用・共創——何を入れるかは自由な「器」。だからこそ自社の経営課題に合わせて設計できます。

「コミュニティを作りましょう」と聞くと、コミュニティを持つこと自体が目的のように感じるかもしれません。けれど、それは逆です。コミュニティは目的ではなく、経営課題を解くための「器」です。何を入れるかを決めるのは、あなたの会社の課題のほうです。

この順番を取り違えると、運営はたちまち迷走します。「とりあえずコミュニティを作ってみたものの、何のためにあるのか分からなくなった」という声は、実際の相談の場面でもよく耳にします。器を先に用意して、あとから中身を探そうとするから、そうなるのです。まず解きたい課題があり、その課題を解くための場として器を用意する。この向きを最初に押さえておくことが、遠回りを避ける何よりの近道になります。

たとえるなら、コミュニティは料理を盛る器のようなものです。立派なお皿を先に買っても、そこに何を盛るかが決まっていなければ、食卓は始まりません。お皿の形や大きさは、盛りたい料理が決まってはじめて意味を持ちます。LINEやDiscordといったツールも同じで、それ自体は器であって料理ではありません。「何のツールを使うか」から入ってしまう相談が多いのですが、本当に決めるべきは、その器に盛る料理——つまり自社が解きたい課題のほうです。ツール選びに何週間も悩むより、「何を解きたいのか」を一言で言えるようにするほうが、はるかに先へ進みます。

「器」という考え方

器そのものには決まった中身がありません。だからこそ、集客を入れることも、顧客の定着を入れることも、採用や共創を入れることもできます。前章までで見た「関係の不在」という根に対して、関係を積み上げる場を用意する。その場が器です。

器(コミュニティ) 集客 定着 採用 共創
図:ひとつの器に、自社の課題に合わせて中身を入れる

器という比喩には、もう一つ大事な含みがあります。それは、同じ器でも中身を入れ替えたり、少しずつ足したりできる、という柔軟さです。最初は集客のために始めた場が、参加者との関係が深まるうちに、既存顧客の定着の場としても働きはじめる。あるいは、その場のファンの中から「ここで働きたい」という人が現れて、採用の入口にもなっていく。器は一度きりの使い捨てではなく、会社の成長に合わせて役割を広げていける、長く付き合える道具なのです。

実際の相談の場でも、この柔軟さが後になって効いてくる場面を何度も見てきました。業種は映像制作から美容、腸活まで幅広いのですが、興味深いことに、最初に掲げた目的のまま何年も進む会社はむしろ少数です。集客のために始めた場が、いつのまにか既存客の交流の場として最も価値を発揮していた、というように、走りながら重心が移っていく。それでも器そのものは壊さずに残るので、方向転換のたびにゼロから作り直す必要がありません。業種が違っても悩みは驚くほど似ていて、そして器という発想がその悩みに柔らかく応えてくれる点も共通しています。だからこそ、最初の設計を完璧にしようと気負う必要はないのです。まず一つの課題で始め、場の様子を見ながら中身を整えていけばよい。器は、その試行錯誤を受け止めてくれる懐の深さを持っています。

なぜ「器」という言葉をあえて使うのでしょうか。それは、コミュニティを「施策」と呼んでしまうと、どうしても一過性の取り組みとして扱われがちだからです。施策には始まりと終わりがあり、成果が出なければ打ち切られます。しかし器は、中身が変わっても器そのものは残り続けます。今期はこの課題、来期はあの課題、と入れ替えながら、長く使い続けられる。この「残り続ける」という性質こそが、点の接触では得られなかったものであり、前章で見た「積み上がらない」という悩みへの答えでもあります。器を持つとは、単発の施策を一つ増やすことではなく、会社にとっての土台を一つ持つことなのです。

何を入れるかは自由

同じ「コミュニティ」でも、目的が違えば設計は変わります。見込み客を集めたいのか、既存顧客に長く付き合ってほしいのか、社員の定着を高めたいのか。器は共通でも、入れる中身によって運営の力点が変わります。

解きたい課題器に入れるもの期待する変化
集客学び・情報交換の場見込み客との関係が育つ
顧客の離反継続的な交流・体験リピートと紹介が生まれる
採用・定着価値観の共有・つながりミスマッチと離職が減る

たとえば、小さな学習塾を営む方が、生徒集めに悩んでいたとします。器という発想に立てば、「まず生徒を集める広告を打つ」ではなく、「地域の保護者が子育てや進路について気軽に情報交換できる場をつくる」という選択肢が見えてきます。同じ器を、別の塾なら「卒業生と在校生がつながり続ける場」として使い、離反ならぬ関係の継続に活かすかもしれません。入れる中身が違えば、同じ器がまったく異なる課題を解く道具になる。ここに、器という考え方の自由さがあります。

このとき覚えておきたいのは、一つの器に欲張って何もかも入れようとしない、ということです。集客も定着も採用も、全部を最初から詰め込もうとすると、参加している人から見て「ここは何のための場なのか」が分からなくなります。何のための場か分からない場所には、人は落ち着いて居られません。中身を選ぶとは、同時に「今は入れないものを決める」ことでもあります。まずは一つの課題に絞って中身を定め、その場が回りはじめてから、隣の課題を少しずつ足していく。器の柔軟さは、あくまで「後から広げられる」という意味であって、「最初から全部盛れる」という意味ではないのです。この見極めができるかどうかで、運営の落ち着きが大きく変わってきます。

この自由さは、裏を返せば「自分で中身を決めなければならない」という難しさでもあります。決まった型がない分、何を入れるかを自社で見極める必要があるからです。ここでつまずく方は少なくありません。しかし、その見極めは決して難しい作業ではありません。出発点は、これまでの章で見てきたとおり、いつも自社の経営課題です。いま最も痛みを感じている課題は何か。それを一つ選べば、器に入れるべき中身はおのずと定まります。器の形に頭を悩ませる前に、まず「何を解きたいのか」を自分の言葉で言えるようにしておく。それさえできていれば、中身は自然と決まっていきます。

課題別の使い分け

課題別に使い分けると言っても、難しく考える必要はありません。順番はいつも同じで、まず「いま自社がいちばん困っていること」を一つ挙げ、次に「その困りごとを解くには、どんな関わりが場に生まれればよいか」を考える。ただそれだけです。集客に困っているなら、見込み客が自然に集まって学べる関わりを。顧客の離反に困っているなら、買ったあとも交流が続く関わりを。人が採れないなら、価値観に共感した人が集まる関わりを。困りごとと、それを解く関わりが結びつけば、器に盛る中身はもう決まっています。この結びつけを飛ばして、いきなり「どんな投稿をしよう」「どんなイベントをしよう」と手段から考えはじめると、また器が先に立ってしまいます。

大切なのは、流行っているからコミュニティを作るのではなく、自社が最も解きたい課題から中身を決めることです。器という発想に立てば、他社の成功例をそのまま真似る必要はありません。ここでよくある失敗が、うまくいっている他社の運営を丸ごと真似てしまうことです。しかし、その会社と自社では、解きたい課題も、届けられる価値も、お客様の顔ぶれも違います。中身が違うのに器の形だけ真似れば、どこかでちぐはぐが生じます。参考にすべきは他社の「形」ではなく、その会社が「どの課題から逆算して設計したか」という考え方のほうです。

器は同じでも、中身は自社の課題が決める。

次章では、その中でも多くの企業に共通する「顧客ロイヤルティとLTV」への効果を掘り下げます。

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株式会社AI Docks 代表 松永勇樹
株式会社AI Docks 代表取締役 /「コミュニティ2.0」提唱者

松永 勇樹

150名+ノーコードサロン運営
50件+場づくりの相談実績
多業種法人コミュニティ支援

150名以上が参加するコミュニティを自ら運営する現役オーナー。AIを活用し、中小企業のコミュニティを「立ち上げ」から「運営」まで一気通貫で伴走支援しています。集客・顧客定着・採用に効く"稼ぐコミュニティ"を、設計から収益化まで一緒に形にします。

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