第3部 中小企業の経営課題とコミュニティ Lesson 15 / 40

経営課題を「構造」で捉え直す

集客・定着・採用は別々の問題に見えて、根は『顧客・人との継続的な関係の不在』でつながっています。個別施策の前に構造で捉え直すと、打ち手が変わります。

多くの中小企業が、集客・顧客の離反・採用難といった課題を「別々の問題」として抱えています。それぞれに担当を置き、それぞれに施策を打つ。けれど手応えが出にくいのは、根が同じ一本の幹から伸びているからです。本章では、目の前の症状を並べるのではなく、その奥にある構造から課題を捉え直します。

限られた人手と予算で経営を回している中小企業ほど、この「構造で捉える」という視点が効いてきます。大企業のように、集客専任・顧客対応専任・採用専任と部署を分けて、それぞれに十分な予算を割ける会社はそう多くありません。むしろ一人の担当者、あるいは経営者自身が、これらの課題をすべて抱え込んでいるのが実情でしょう。だからこそ、症状ごとにバラバラに対処していると、時間も気力もあっという間に尽きてしまいます。逆に言えば、根を一つに見定められれば、少ないリソースを一点に集中させられるということです。

バラバラに見える経営課題

集客が伸びない、リピートが続かない、人が採れない。担当者にとっては、どれも切実で、しかも無関係に見えます。実際、対応する部署も予算の出どころも違うことが多いでしょう。

表面的な課題よくある個別対策起きがちなこと
集客難広告出稿を増やす費用がかさみ流入は一時的
顧客の離反値引き・キャンペーン単価が下がり関係は続かない
採用難求人媒体を追加応募は増えても定着しない

こうして施策は増えるのに、成果が積み上がらない。それは、症状ごとに対処しているからです。しかも、対処が増えるほど担当者の手は塞がり、目の前の火消しに追われて、じっくり根本を考える余裕が失われていきます。忙しいのに前に進んでいる実感がない——多くの中小企業が陥るこの感覚は、まさに症状対処の悪循環から生まれています。ここでよくある誤解が、「成果が出ないのは、施策の量や予算が足りないからだ」という捉え方です。もちろん量が問題になる場面もありますが、根が「関係の不在」にある限り、同じ発想の施策をいくら足しても穴の空いたバケツに水を注ぎ続けることになります。バケツの底、つまり構造そのものに目を向けない限り、注いだ分だけ漏れていくのです。

根はひとつ「関係の不在」

見え方は違っても、これらの課題の根はひとつに集約できます。それは、顧客や人との継続的な関係が積み上がっていないという構造です。関係が薄いから、集めても離れる。離れるから、また集め直す。人も、関わりが浅いから定着しない。

集客難 顧客の離反 採用難 根:関係の不在
図:別々に見える課題は、ひとつの根から伸びている

たとえば、ある地方の工務店を思い浮かべてみます。チラシやポータルサイトへの掲載で問い合わせは取れるものの、一度建てたお客様とはその後ほとんど関わりがなく、次の紹介にはつながりません。だから毎年、また新しい広告費をかけて新規を追いかける。同じ会社で、若手がなかなか定着しないという悩みも抱えていました。一見別々の話ですが、どちらも「関わり続ける仕組みがない」という同じ構造から生まれています。お客様との関係が続かないのも、社員との関係が深まらないのも、根は地続きなのです。この工務店にとって必要なのは、新しい広告でも新しい求人媒体でもなく、人とのつながりが積み上がる土台でした。

なぜ、これほど多くの会社が同じ根を抱えるのでしょうか。理由は、これまでの事業の多くが「取引が終わった瞬間に関係も終わる」構造で組まれてきたからです。商品を売ったら、そこで顧客との関わりは一区切り。次に必要になるのは、また新しい顧客を探す集客活動です。この「売って終わり」の繰り返しが当たり前になると、関係を続けるという発想そのものが抜け落ちてしまいます。採用も同じで、入社してもらったら現場に配属して終わり、あとは本人任せ、となりがちです。つまり関係の不在は、担当者の怠慢ではなく、事業の組み立て方そのものに埋め込まれた構造なのです。だからこそ、個人の努力を足すだけでは埋まりません。組み立て方に手を入れる必要があります。この点は、業種を問わず驚くほど共通していて、場づくりの相談を重ねるほど、悩みの見た目は違っても根が同じであることに気づかされます。

症状に薬を出し続けるより、根に手を入れるほうが、結局は早い。

構造で捉えると打ち手が変わる

課題を構造で捉え直すと、打ち手の順番が変わります。まず「集客する」のではなく、まず「関係を積み上げられる場」を持つ。その場が育てば、集客・定着・採用は同じ土台の上で連動して改善していきます。個別最適の足し算から、土台への投資へ。

なぜ一つの土台で三つが同時に良くなるのか、少し具体的に見てみましょう。関係が続く場があると、まず既存の顧客が離れにくくなります。そして関係の深まった顧客は、頼まなくても知人を連れてきてくれます。これが紹介による集客です。広告で新規を追いかけなくても、信頼をもとにした自然な流入が生まれます。さらに、そうした温かい関係が外から見えていると、「この会社は人を大切にしている」という評判が伝わり、採用にも良い影響が及びます。実際、既存の顧客やファンから社員が生まれる、という流れは決して珍しくありません。つまり、一つの土台が育つと、集客・定着・採用という三つの出口が同時に開いていくのです。これが、症状ごとに別々の薬を出すやり方では決して得られない、構造に手を入れることの見返りです。

もう一つ、構造で捉える利点があります。それは、打ち手の効果が「積み上がる」ようになることです。個別施策は、多くが打ったその場かぎりで消えていきます。今月の広告費は今月のうちに使い切られ、翌月にはまたゼロから始まる。一方、関係という土台への投資は、時間とともに資産のように積み上がっていきます。今年つくったつながりは、来年も再来年も、集客や紹介、採用の入口として働き続けます。短期的には遠回りに見えても、長い目で見れば、こちらのほうがずっと足腰の強い経営になります。

この違いは、広告とコミュニティを「狩猟と農耕」にたとえると分かりやすくなります。広告は狩猟です。獲物を追い、仕留めれば成果になりますが、翌日にはまた新しい獲物を探しに出なければなりません。撃つのをやめれば、収穫はゼロに戻ります。一方、関係を育てる場づくりは農耕です。畑を耕し、種をまき、水をやる。すぐには実りませんが、いったん育てば、毎年繰り返し収穫できる畑になります。どちらが良い悪いという話ではありません。当面の売上を支えるには狩猟も要ります。ただ、狩猟だけを続けている限り、いつまでも追い続ける経営から抜け出せない。だから、狩りをしながら、少しずつ畑も耕しておく。その両立の視点が、構造で捉えるということなのです。

もちろん、構造で捉え直したからといって、明日から目の前の集客をやめてよいわけではありません。当面の売上を支える施策は、施策として続ける必要があります。ここで言いたいのは、その日々の対処と並行して、少しずつでも土台に手を入れていく視点を持つことです。すべてを一度に切り替える必要はありません。まずは、いま抱えている複数の悩みを紙に書き出し、その一つひとつの裏に「関係の不在」という共通の根が透けていないかを問うてみる。そこから、最初に土台を築くべき一点が見えてきます。構造で捉えるとは、特別な道具を導入することではなく、まず見方を変えることから始まるのです。次章では、なぜ従来の解決策だけでは根に届かないのかを見ていきます。

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株式会社AI Docks 代表 松永勇樹
株式会社AI Docks 代表取締役 /「コミュニティ2.0」提唱者

松永 勇樹

150名+ノーコードサロン運営
50件+場づくりの相談実績
多業種法人コミュニティ支援

150名以上が参加するコミュニティを自ら運営する現役オーナー。AIを活用し、中小企業のコミュニティを「立ち上げ」から「運営」まで一気通貫で伴走支援しています。集客・顧客定着・採用に効く"稼ぐコミュニティ"を、設計から収益化まで一緒に形にします。

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