第2部 コミュニティの原理 Lesson 10 / 40

150人の壁 ―― ダンバー数と関係性の限界

ダンバー数(約150人)は、関係性だけで維持できる認知の上限。これを超えると、ルール・システム・共通ビジョンが必要になります。規模ごとに運営の質が変わる分岐点です。

コミュニティを大きくしていくと、あるところで急に運営が難しくなります。「顔と名前が一致しなくなった」「なんとなく雰囲気が悪くなった」。この変化には、はっきりした目安があります。それが約150人という「ダンバー数」です。人数が増えること自体は喜ばしいことのはずなのに、なぜかある規模を境に運営がぎくしゃくし始める。その背景には、人の認知の限界という、変えようのない事情があります。

ダンバー数とは

ダンバー数とは、人が安定した関係を保てる相手の数の上限を指し、その目安が約150人とされます。ここでいう関係とは、相手の顔と名前が分かり、その人の背景もなんとなく思い浮かぶ、という程度のつながりです。

この人数までは、特別なルールがなくても、お互いの気配りや自然なやりとりだけで場が回ります。逆に言えば、150人あたりが「関係性だけで維持できる」限界の目安になります。ここで注意したいのは、150という数字はあくまで目安であって、厳密な境界線ではないという点です。人によって、また場の性質によって、その値は前後します。大切なのは正確な人数ではなく、「関係性だけで支えられる規模には上限がある」という事実そのものです。誰しも、一度に深く関われる相手の数には限りがあります。参加者が増え続ければ、いつか必ず「全員は把握しきれない」段階に達します。その手前と先とで、運営に求められるものが変わるのです。

もう少し細かく見ると、この150という数字の内側にも、いくつかの層があります。困ったときにすぐ頼れる本当に親しい相手は数人、気心の知れた仲間は十数人、顔と名前が一致し近況もなんとなく分かる相手が150人ほど、という具合に、関係の濃さごとに規模が変わっていきます。コミュニティを設計するときは、「全員と同じ濃さでつながろう」とせず、この層を意識することが役立ちます。すべての参加者と運営者が深く関わるのは物理的に不可能ですが、その代わり、濃く関わる中心の数人を大切にし、その人たちがまわりの人とつながっていく、という広がり方をつくれば、150という上限に縛られすぎずに場を育てられます。

約150人の壁 〜150人 関係性で回る 150人〜 ルールとシステムが要る
図:150人を境に、運営を支える仕組みが変わる

150人の壁で何が変わるか

壁の手前と先では、運営の質そのものが変わります。下の表で比べてみます。

観点150人まで150人を超える
つながり顔と名前が一致する知らない人が増える
運営の支え気配りと自然なやりとりルールとシステム
まとまり空気感で保てる共通ビジョンが必要

壁の手前では、運営者が一人ひとりを覚えていられます。「あの人は最近来ていないな」「この人はこの話題が得意だ」といった細やかな把握が、自然にできます。この把握こそが、気配りややりとりの土台です。ところが壁を越えると、運営者の頭の中に全員を収めきれなくなります。すると、これまで感覚でこなしていた目配りが届かなくなり、放っておかれる人、なじめない人が出てきます。にぎわっているように見えて、実は一人ひとりの満足度は下がっていく。「規模が大きくなったのに、なぜか活気が落ちた」という感覚の正体は、これです。人の認知が追いつかなくなった分を、別の何かで補う必要が出てくるのです。

興味深いのは、この「認知の限界」を、AIがある程度まで補えるようになってきたことです。誰がいつ参加したか、最近発言が減っているのは誰か、どんな話題が盛り上がっているか――こうした一人では追いきれない情報を、AIが記録し、整理し、レポートとして示してくれます。実際、自社のコミュニティ運営でも、活動データの自動レポートによって「そろそろ声をかけたほうがいい人」に気づきやすくなりました。ただし、ここでも主役はあくまで人です。AIが「この人が離れかけている」と教えてくれても、実際に声をかけ、関係を結び直すのは人間の仕事です。AIは認知の限界を押し広げてはくれますが、絆そのものをつくってはくれません。作業はAIに、関係性は人間に。この線引きを守ることが、規模が大きくなっても場の温度を保つ鍵になります。

よくある誤解

ここでよくある誤解が二つあります。一つは、「150人を超えてはいけない」という受け止め方です。ダンバー数は禁止ラインではありません。超えること自体は問題ではなく、超えたのに運営のやり方を変えないことが問題なのです。もう一つは、その逆で、「とにかく大きくすればするほど価値が上がる」という思い込みです。人数は分かりやすい成果に見えますが、関係の薄い1,000人より、深くつながった100人のほうが、動くコミュニティになることは珍しくありません。大きさは価値の一面にすぎず、それだけを追うと中身が空洞化します。

この「規模より継続」という考え方は、中小企業にとってとりわけ大切です。人数の多さは、外から見たときの見栄えにはなります。しかし、実際に商品を買ってくれたり、まわりに紹介してくれたり、場を一緒に盛り上げてくれたりするのは、薄くつながった大勢ではなく、深くつながった少数です。売上や口コミといった成果は、参加人数ではなく、関係の濃さから生まれます。だからこそ、「何人集めたか」よりも「どれだけ深く続いているか」を運営の物差しにすべきなのです。数を追って規模を膨らませた結果、一人ひとりへの目配りが行き届かなくなり、かえって離れていく――この失敗は、実によく起こります。壁の存在を知らないまま、ただ数だけを追うことの危うさが、ここにあります。

壁を越えるとルールが要る

150人を超えると、「なんとなく」で回っていた運営が立ち行かなくなります。全員を把握できないぶん、行動の指針となるルール、情報を届けるシステム、そして向かう先を示す共通ビジョンが必要になります。

具体的には、たとえば「初めての人にはこう声をかける」「こういう投稿は控える」といった、これまで暗黙だった了解を、言葉にして共有する必要が出てきます。運営者一人が目を配る代わりに、案内役やまとめ役といった役割を分担し、複数人で場を支える体制も要るようになります。イメージしやすい例で言えば、参加者30人ほどの読書会は、主催者が毎回全員に一言ずつ声をかけるだけで温かい雰囲気を保てます。しかし同じ運営のまま参加者が200人に膨らむと、主催者一人では手が回らず、常連ばかりが話し、新しい人は黙って去っていく、という状態に陥りがちです。ここで「グループを話題ごとに分ける」「新規の人を迎える担当を置く」といった仕組みを入れられるかどうかが、壁を越えられるかの分かれ目になります。

大きくすること自体が悪いのではなく、大きさに合った仕組みへ切り替えられないことが問題です。

ここで大切なのは、コミュニティを「大きさ」だけで語らないことです。150人以下でも、関係性の密度が濃ければ十分に価値があります。中小企業にとってはむしろ、無理に壁を越えて運営を重くするより、壁の手前で密度の濃い場を保つほうが、現実的で続けやすい選択であることも少なくありません。規模を追うのか、密度を深めるのか。壁の存在を知っておくと、自社がどちらを目指すのかを意識して選べるようになります。数字に流されるのではなく、自分たちの目的に合った規模を、自分で選び取る。そのための一つのものさしが、この150人という目安なのです。そして忘れてはならないのは、人が安心して顔と名前を覚え合える上限には、生き物としての限界があるという事実です。どんなに便利な道具が増えても、一人の人間が深く関われる相手の数そのものは、そう大きくは変わりません。だからこそ、規模を追うときには「一人ひとりとの関係が薄まっていないか」をいつも自分に問い直すこと。その問いを持ち続けられる運営こそが、大きくなっても温度を失わない場をつくっていきます。

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株式会社AI Docks 代表 松永勇樹
株式会社AI Docks 代表取締役 /「コミュニティ2.0」提唱者

松永 勇樹

150名+ノーコードサロン運営
50件+場づくりの相談実績
多業種法人コミュニティ支援

150名以上が参加するコミュニティを自ら運営する現役オーナー。AIを活用し、中小企業のコミュニティを「立ち上げ」から「運営」まで一気通貫で伴走支援しています。集客・顧客定着・採用に効く"稼ぐコミュニティ"を、設計から収益化まで一緒に形にします。

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